拾ったのは、大きな交差点での信号待ち。
なにかアスファルトの道端に似合わない、
幾何学的な形状をした黒いモノが落ちていた。
手に取れば解る。
大勢の信号待ちの人の気配が周りにある。
たぶん、これに気がついた人は複雑な心境だろう。
今時。
誰もが、無くした時の不具合を何かしら持ってるだろうし、
誰もが、「めんどくさい」と思うだろうし。
さすがに俺も青い信号を一度やり過ごして考えた。
20% くらいは、このまま置いていこうかと思った。
なにせ、とってもおなかが減ってたのである。
でも、まあ、自分で無視できない事は
自分が一番良く解ってる。
元気な時なら、そのまま交番に直行するんだが、
さすがに暑さと空腹と勤務明けの疲労の為、
少しだけ悩んだが、まず家帰って飯食う事にした。
食後。
インターネットに技術情報を一つ投稿してから外出の用意をはじめた。
財布は持ったが、自分の携帯などは持たない。
自転車で、近所の交番まで5分はかかる。
まあ、散歩のつもり。
暑い。暑いが、エネルギー充填済みなので辛くは無い。
最後の坂をさすがに自転車降りて押した。
で。
予想どうり警官は誰もいない。
「御用の方は○○番へ、緊急は110番へ」
交番から110番って・・・
とか思いながら、どうするか座って考える事にした。
実は、この交番、誰もいないくせにクーラーガンガンに効いている。
じっくり考えるには、結構良い環境だった。
自分の部屋より明るいし、机の上は、見事なほど何も無く、
人の気配も全く無い。
それに、ここに来るまで4回着信している・・・
他人の携帯なんざ取る気にはなれない。
というか、取り方もよく解らない。
着信履歴をなんとかみつけて見ると、
1分きざみで
「まどか」
「まどか」
「裕子」
「裕子」
こいつ何もんや・・・
とか思ってしまった。
最初、拾った場所がらから学生だと思ってたんだけど、
変なヤローだったらめんどくせーし。
その着信に折り返しかける気にはならない。
なんか、ややこしい事になるかもやし。
で。
発信履歴を見ると、トップに
「自宅」
つまり、運命が背中押しました。
即かけて、
「この携帯拾ったんですけど」
と話かけた。
|