それは。
放物線の方程式に特殊な係数を掛けたかのような軌跡だった。
視界に埋まるこの世界の「交通網」は、
決してお互いに交わる事は無く、
縦横無尽に次元と空間を行き来してるはずである。
「こんにちは」
銀髪の少女が僕に笑顔で挨拶をしている。
無限の異世界を旅するものにとって、
一息つける唯一の瞬間である。
いかなる熟練者であれ、
また、いかに事前に調査していても、
彼女から渡される情報に比べれば、それは無いに等しい。
「君が一番の謎だ」
「ふふ」
毎度のセリフと彼女の反応。
嘘では無い。
ルールはあるが、そのルールが定められた背景は誰も知らない。
彼女が何なのか、解るはずも無い。
だが、他の旅人と僕の扱いがかなり違う理由だけは・・・
いつか解明しようと思っている。
「狂四郎さん」
「え?」
「困った事になりました」
僕が驚いている理由とは別の事件が起こっていた。
息がかかるほどの近くに急に現われた彼女の瞳の中で、
急激に異変が起こっている。
そこに写し出された風景は、あるはずの影の消失を物語る。
しかも、空気の振動が皮膚で感じ取れるほどであり、
それは明らかにこの空間そのもの状態変化を示していた。
遥か彼方まで見通せる空と地平を持つ空間であったが、
まるで音響効果抜群の洞窟の中のような閉塞感を感じさせる。
不思議なエコーが呟く声にまで干渉する。
そんな異質が一瞬にして消えた。
「困った事になりました、狂四郎さん」
何故か彼女は楽しそうであった。
「・・・・ん。というか、何故僕の名を?」
僕の驚きはずっとそちらであった。
「さすがですねぇ、トッテモ大変な感じなんですけど・・・」
「その割に楽しそうなんですけど」
「そうかしら? ふふふ」
間違いなく彼女は今この状況を楽しんでいる。
しかし確かにこのままではどこにも行けそうにに無い。
この空間は固定されてしまったようである。
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