遠い記憶の彼方にうずくまっている僕自身の影。
それは、誰も知らない僕だけが知っている君。
語るとすれば、それは君では無く僕。
僕が、まぎれもなく僕が、
その楽しそうな笑顔を、
僕自身に語る。
そこは大和の国。
君がまだ父や母無しではとてもじゃ無いと行けない所。
母もそのような事が起きるとは思っていなかった。
そこで育った人たちにはそれほどでも無かったかもしれないが、
僕たちにとっては、
およそ二度と出会えない映像を心の奥に焼き付ける事になる。
夜の闇。
水が流れる音。
長い茎を持ち、優雅な弧を持つ草同士が擦れ合う音。
蛇行する小川も、その豊富な草の容量で全てを見る事はできない。
地面に近い君の視野では自分の進む道を見るのが精一杯。
君はそのせいか自然と空を仰ぎ見る。
そこは別世界だった。
それは見た事も無い星ぼしの濁流。
じっと動ぬが、君に興奮を感じさせずにはいられない。
その。
夜空の川に見惚れぬ人が居ろうか。
否。
しかし、君にとっての奇跡はまだ起こってはいない。
それは、ごく普通の、その前の静けさでしかなかった。
光が舞う。
それはまるで地面より無限に湧き出る光。
もしそこに漢の詩人が居たならば、
その光に中に龍を見たかもしれない。
ほのかな光が無数に空気に混じる。
手を振るだけでその光にいくつも触る事ができる。
君は持っていた網を捨て、走り出す。
君は前を見、空を仰ぎ見、振り返る。
そこには必ず光の帯が無数にある。
いったいいつまで続いたのだろう。
その夜の時間はおそらく、
とてもゆっくりと進んでいたに違い無い
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